日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

13 特徴ある研究

13 特徴ある研究
多数整備されなかったものではあるが、特徴ある研究成果または真空管の開発等で興味のあるものについて概述する。
昭和12年より実用機の無線操縦が研究され、昭和15年に至って完成した。
 
実用航空機の無線操縦
被操縦機は3座の94式水上偵察機で符号選択方式により10項目の制御を行うものであるが、機上用受信機は受信周波数3McのRF1段付水晶制御スーパーである。
送信機は監視用飛行機に出力10w(UZ510終段)、艦上用に出力100w(UV812終段)の何れも3Mc送信機による。
前記機上用送信機により約6Km、艦上用100w機により35Kmの距離まで操縦可能である。
 
対空射撃目標機の無線操縦
高角砲射撃の目標として22HP発動機を積んだ時速130Km程度の無人小型目標を無線操縦するもので、消耗品的性質のため簡易に構造せられた。
受信機は周波数3Mc、RF1段付水晶制御スーパー。
送信機は出力10w、UZ510を2本使用し、サプレッサー変調により、800、1000、1200c/sの変調を行う方式である。
 
航空機対潜水艦用無線機
潜水艦は、短波アンテナを水上に露出すれば対艦船、対航空機通信は容易であるが全没状態では、短波、中波による通信はまったく不可能となる。
但し超長波のみは海面下10数米までは受信可能であり、名古屋郊外の依佐美送信所の対欧通信用17Kcの送信機が利用された。
上空にある飛行機に搭載し、通信を試みるため送信周波数10Kcの機上用送信機が研究された。
発振子として10Kcの音叉を使用、終段807により約10wの出力を得んとするもので、空中線は200mの垂下空中線を使用した。
試作に終わったが実験の段階に終わった模様である。
3式1号探知機
通称KMXという航空機搭載用の磁気探知機であり、潜水艦発見用である。
すなわち、海中にある潜水艦による磁場を飛行機上のサーチコイルむに通過させ、出力電圧を増幅検知せんとするものである。
3,000トン級の潜水艦の上方80mを220Kmの速度で通過する飛行機上の直径50cm、捲数10,000回のコイルに誘発される電圧160μV、160mの上空にあっては10μV程度となる。
そのときの信号周期は1.5秒乃至2秒である。
この出力を、1c/sをカットオフ周波数とするローバスフィルターを通して増幅、検知するものである。
地磁気によるピックアップや、飛行機機体内の渦電流による影響を排除して苦心完成された。
戦争終期に及んで完成、実戦に活躍して大きな戦果を挙げたものである。
 
航空機無線用統合真空管について
航空機用無線機、したがってこれを使用する真空管の所要数が極めて多量となるに及び、生産及び補給の点よりして、これらを整理統合せんとする方向にむかった。
受信用として万能型5極管FM2A05Aが採用された。
名称はF航空用、Mオクタルベース、2ヒーター電圧6V×2、A万能型、05 5極管1組、A製作順位1を意味する。
特性はセミバリミュー菅、使用周波数は50Mc程度までとし、アルミニューム薄板によるシールド付トップグリッド型である。
特性の概要は、Ep250V、Ip3.3mA、Esg100V、Isg1.1mA、Ef12.6V、If0.21A、μ=4,000、gm3m℧であった。
次いで陸海軍共通の万能管ソラが完成した。
機械的振動に強い構造をもち、その特性はEp250V、Ip5mA、Esg100V、Isg1.2mA、Ef12V、If0.18A、μ=2,000、gm2m℧、周波数は25Mc程度までのGT管である。
送信用として、発振、逓倍、バッファー用に807に近似の特性を有するビーム管FZ-064Aと終段用として5極管FB-325Aを開発した。
FZ-064Aは、シングルエンド管で、名称のF航空機用、Z UZベース、06入力60w、4 4極管、A製作順位1を意味する。
FB-325Aは、ドイツ系の5極管で、サプレッサー変調特性良好、また広範囲のプレート電圧において使用可能な優秀真空管である。
名称F航空機用、B欧州型ベース、32入力320w、5 5極管、A製作順位1の意味である。

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