日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

4-1-1 乙種移動式無線電信機

4-1-1 乙種移動式無線電信機

第一次制式

軍通信隊用無線機の研究に着手するにあたって、騎兵旅団との通信連絡を最重要のものとし方針を立てなければならない。
然るにテレフンケン会社より購入した当時、最も軽快であった無線機も、騎兵旅団の行動に随伴するためには鈍重過ぎた。
即ち其の移動性は徒歩部隊と行動を伴にし得る手態度であった。
そこで軍通信隊用無線機は止む無く二種とし、左の如く移動性を定め研究に着手したのである。
騎兵旅団に随伴するもの   甲種移動式
其の他のもの        乙種移動式
研究審査の結果テレフンケン会社製移動式無線機は其の移動性に於いて辛うじて乙種移動式の要求を充足するし、これに匹敵するものすら当時の我国無線界では製作し得なかったので、大正2年(1913年)これを仮制式として採用し、乙種移動式無線電信機と呼称した。
これに反し甲種移動式無線電信機は終に研究不能となり、制式制定を見ずに終わった。
本機の重要諸元は次の通りである。
用途    軍通信隊用
通信距離  100Km
方式    送信 瞬滅(クエンチド)火花式
      受信 鉱石検波
電源    発動発電機
      発動機  水冷単気筒4サイクル6HP 1500R.P.M
      発電機  交流1Φ 500c/s 85V 2KVA
空中線   傘型 H=35m L=35m 12条
      対地線 L=90m 12条
本無線電信機は大正2年制定のものであって、本来独逸テレフンケン社製のものであり、東京砲兵工廠においてデッドコピーしたものである。
87式無線機が昭和初頭制定されるまで唯一の制式地上用無線機であった。
送信機は変圧器により85Vの一次電圧を5,000Vに昇圧し、火花間隙は1/5㎜である。
送信用電鍵が2組あるのは、接点の溶着の場合、他の方に切替使用するためのものである。
海軍、逓信省式等の無線機にあっては、この接点の溶着を防ぐため高圧空気を接点間隙に吹付ける等の手段が講じられたが移動用無線機においてはこの方法がなく、2組の電鍵を備えてこれに対処していた。
受信機は鉱石検波器を3組具え、空電其の他の原因により感度がなくなった場合迅速に切替使用できるごとくしてある。
後に簡単な真空管式受信機を附加されることもある。
接続図は次の通りである。

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S3はVCを空中線コイルに直列又は並列に切替えるためのスイッチで、2次回路は非同調であるがタップによりインピーダンス整合を行っている。
S2はバリオメーターのインダクタンスの粗調整、S1は送受信切替スイッチである。
 
参考文献
本邦軍用無線技術の概観 大西 成美
日本無線史 第九巻 電波監理委員会