日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

P‐51Dの無線装置

P‐51Dの無線装置
P51操縦士訓練教本 (九州大学航空模型部のホームページ内の一コンテンツ)の中に無線装置の項目がありますので抜粋して紹介します。
 
無線装置
最新のP‐51Dの無線装置は、VHF(超短波)送受信機、Detrola受信機、AN/APS-13後方 警戒無線セット、IFF(敵味方識別)ユニットから構成される。
全ての無線装置は胴体内コクピット後方にある。
操作部分はコクピット内右側に集められている。
夫々のセットは専用のアンテナを持っている。
VHFアンテナマストはコクピット後方の胴体上部に垂直に取付けられている。
Detrolaアンテナ線は後部防弾鋼鈑から垂直尾翼の最上部につながっている。
AN/APS-13のアンテナロッドは、垂直尾翼の側面に水平に取付けられている。
IFFアンテナは主翼下面から輻射する。

f:id:minouta17:20200201190337j:plain

f:id:minouta17:20200201190348p:plain


VHFセット
パイロットは五つのボタンのついたコントロールボックスでVHFを操作する。
五つのボタンは、電源スイッチと四つの異なる周波数を選ぶためのA,B,C,Dのスイッチである。
これらの周波数は水晶発振であるので、飛行中調節することは出来ない。
パイロットは、一度に一つの周波数で送受信できる。
Aチャンネルは、CAA無線レンジとの交信用である。
Bチャンネルは、VHF施設のある大陸内合衆国の全てのタワーと交信するための国内共 通の周波数である。
このチャンネルは緊急ホーミング用に使われることもある。
Cチャンネルは、隊内交信用である。
Dチャンネルは、通常の帰還に使う地域毎ホーミング用である。
四つのボタンの夫々の横にある色のついた小さなライトが、使用チャンネルを示す。
これらのライトは、夜間飛行時に照度を落とせるように照度調節がある。
コントロールボックスにあるトグルスイッチは、3ポジションある。REM(Remote)、 T(Transmit)、R(Receive)。このスイッチは通常セーフティワイヤでREMポジションに なっている。
トグルスイッチがREMになっていると、VHFはスロットルレバーにあるプッシュボタ ンで遠隔操作できる。
このスロットルのボタンが押されているときは、自分が送信中である。
通常の位置にあるときは、受信中である。
通常パイロットはスロットルボタンによるリモートコントロールを使う。
トグルスイッチの横にある小さな白いライトは、送信中であることを示す。
このライトは、送信中を除いて点灯している。
もしスロットルボタンを押してもライトが消えなければ、送信機が作動していないことが分かる。
一方で、ライトが消えっぱなしでいることは、スロットルスイッチが固着したか短絡し て、あるいはリレーが故障して、送信機がオンであることを示す。
いずれにしろスロットルスイッチを数回操作してそしてメインの無線のスイッチをオンオフして修復を試みること。もしこれでも直らない場合は、安全索を切ってトグルスイッチをREMから必要に応じてRかTに動かすこと。
しかし、送信機をオンにしっぱなしにはしないこと。
これをすると、搬送波が妨害して誰も使えなくなる。
VHFの最大の利点は、低周波装置のように大気の状態で妨害されるような影響をほとん ど受けないことである。
つまり、悪天候でも鮮明な受信が可能になる。
VHFの到達範囲は通常、高度20,000ftで200マイルである。
VHF電波が直進するため、高度と地形で到達範囲が決まる。
一般に高度が上がるほど状態は良くなる。
VHFタワーにコンタクトするためには、タワーとあなたのアンテナとの間を結ぶ線上に 邪魔が無いようにしなければならない。
タワーがあなたから見て地平線下に有ったり、山や高い建物や自分の機体の一部が途中にあると、送受信は邪魔される。
交信するタワーが近くにある場合は、タワーが旋回の内側にありつづけるようにタワーの周りに大きな旋回をすると良い。
離れたVHFステーションとコンタクトする場合は、あらゆる障害物の上にくるように高 く上昇することを明記しておくこと。
例えば90マイルのときは7,000ft、120マイルでは10,000ftまで上がらなくてはいけない。

f:id:minouta17:20200201190414j:plain


The Detrola
Detrola は、長波受信機である。
それは、合衆国全体のタワーとRangeStationの送信周波数をカバーする200‐400キロサイクルの間で作動する。
Detrolaの操作は簡単である。
ステーションセレクターノブと、オン-オフスイッチと一体のボリュームの操作だけである。
ヘッドセットは、VHF装置につながれているが、Detrolaを使うときにつなぎ替える必 要は無い。
DetrolaはVHF装置と中でつながれているので両方のユニットが一つのヘッドセットで使える。
パイロットは、DetrolaとVHFを別々にあるいは同時に使うことが出来る。
両方のセットをオンにすることでDetrolaの受信だけでなく、パイロットが使っているいずれのVHFチャンネルでも使える。
Detrolaに極端な長距離受信を期待してはいけない。
約8,000ft以下ぐらいの高度を飛んでいる時は、通常50マイルぐらいである。
高度が上がると75マイルぐらいまで伸びる。
好条件下では更に距離は伸びるが、これぐらいが当てに出来る距離である。
Detrolaは受信のみであることを明記しておくこと。
この装置でタワーやレンジステーションに話し掛けることは出来ない。
パイロットがタワーやレンジステーションと話しが出来るのは、VHFセットのみである。
これが両方を同時に使えることの利点である。
パイロットは一つで受信しながらもう一つで送信や受信が出来る。

f:id:minouta17:20200201190440j:plain

 

後方警戒無線
AN/APS-13ユニットは、自機の後方に他の航空機が存在または接近することをインジケ ータランプと警報音でパイロットに警告する軽量なレーダーセットである。
赤いレンズのインジケータランプは計器板のひさしのの左側に取付けられていて、警報 音は、座席の左にある。
コントロールスイッチは、右側のパネルにある。
この装置は自動で、トグルスイッチでオン-オフできる。
また、ライトと警報音の作動チェックスイッチが有り、インジケータランプの輝度調整用レオスタットがある。

f:id:minouta17:20200201190501j:plain


IFFセット
IFFセットは、戦闘空域で使うための識別装置である。
この操作は簡単である。
必用な操作はトグルスイッチでオン-オフすることだけであり、あとは自動的に作動する。
IFFはパイロットが敵地において機体を放棄しなくてはならないときに、その重要な 部分を破壊するための自爆装置を内蔵している。
自爆装置は、コクピットの右側にある箱に有る二つのスイッチを押すことで作動する。二つのボタンは同時に押さなくてはいけない。
IFFはまた、墜落時においても自爆装置を作動させるための衝撃スイッチを持ってい る。
これにより、パイロットが脱出の必要な状況において二つのボタンを押す余裕の無 いときでも、装置は破壊されるようになっている。
自爆装置は装置の内部を破壊するが、パイロットや機体には無害である。

f:id:minouta17:20200201190519j:plain


無線航法
航法支援の為に、パイロットはDetrolaとVHFセットを個別に或いは一緒に使うことが 自由に出来る。
通常の無線航法施設とこの装置を合わせて使える以上、無線航法施設に制限のないこの国の中で迷子になることに言い訳は許されない。
これらを十分に使いきるために、パイロットは利用できる全ての援助について徹底的に 知らなくてはいけない。
もしそうでなければ、あなたが良く理解していないまさにその装置が必要となるような絶望的な状況に陥ることになるだろう。
パイロットは、たった一つの装置に頼ろうとする傾向が非常に強い。
例えば、彼らはVHFセットを使い、Dtrolaについては見向きもしない。
このような中途半端なやり方は明らかに危険である。
それゆえ、全ての装置を自由に使いこなせるように徹底的に練習することが必要である。

ホーミング(帰投)
ホーミング施設は通常VHFチャンネルのBとCで使える。
パイロットが緊急事態に陥ってホーミングが必要になったときに、次の二つのことを明 記しておくこと。
1. 緊急のホーミングが必要であることを必ず伝えること。
2. もし近くのステーションを知っていたらそこを呼ぶこと。
しかし、非常に切迫した状態においては、どのステーションでも呼ぶこと。
ホーミング施設を使えば容易に助けられるはずの多くのパイロットが迷子になる。
それは彼が、恐らく聞いているに違いないステーションを呼び出し、緊急ホーミングが必要であることを伝えていないからである。
聞いている他のステーションは、彼が練習しているだけだと思い応答の機会を失ってしまう。
何らかの理由により、ホーミング周波数で受信機が働かないような場合、それでも送信 が出来る時は、ホーミングステーションに状況を連絡し、Detrolaで受信できる低周波 (200-400ヘルツ)で方位を連絡するよう要求しなさい。
方位連絡を受信後に無線機が故障したときは、その方位を保って飛行し、飛行場を探す こと。
最も重要なことは、緊急連絡において大声で話すのではなく、ゆっくり話すこと。
深刻な緊急事態になると、パイロットは一時にたくさんのこと伝えようとするのが自然 である。
しかし、パイロットが不注意にも早口でかつ大声で話そうとすると、メッセー ジは間違って伝わる。
また、緊急通信を受けた人がパイロットの声の調子で緊急事態の重要性を判断してしま うなどの心配をする必要はない。
叫びたいようなときに静かに落ち着いていればより多くの注意を得る。
緊急通信の発信において、そのときに使っているチャンネルとB(アメリカ共通)チャ ンネルの両方を使うことはいい考えである。
これはパイロットがどの程度の時間的余裕を持っているかと自体の緊急性による。
全てのホーミングとVHFステーションは、Bチャンネルで緊急事態に備えている。
パイロットが送信だけをして手を開けておきたいときは、VHFコントロールボックスの スイッチを「T(送信位置)」にしておく。
この状態で、パイロットは送信の為にスロットルに有る送信ボタンを押す必要は無くなる。
のどマイクは喉仏のところにしっかり固定されていることを確認しておくこと。
そして「Mayday」をコールしなさい。
自分の機の機体番号か識別番号を確実に伝えること。
また、概略の位置とできればトラブルの状況をつたえること。
もし不時着やパラシュート降下をしようとしているなら、それを伝えること。
これが素早く救助してもらうための最も良い方法である。
救助隊は、パイロットがどこに下りたかを知っていれば当然そこに集中する。
パラシュート降下のときは、BチャンネルでVHF送信機をTにしておくこと。
そうすれば、搬送波でホーミングステーションはパイロットが脱出した後も飛行機がどこに落ちるかを特定できる。
注意:Bチャンネルにおいてパイロットは、「Mayday」を全てのステーションに向けて 送ることが出来る。
それによりこのコールを受けたどのステーションでもホーミングを送ることが出来る。
あなたがどこか特定のステーションをコールしなければならない制約はない。
緊急事態において受信機が故障して働いていない場合でもとにかく送信を試みること。
もしかすると送信機は働いている可能性があり、そして誰かがそれを受信するかもしれ ない。
たとえ双方向の会話が保てなくても、状況を連絡できれば、あなたは少なくとも 緊急着陸の許可や、どこか他のところに降りるにしても素早く救助を受けることが出来 る。
もし緊急事態であるなら連絡をためらってはいけない。
そして、一度緊急着陸を要請し許可を得たら、飛行場を周回したり、格好良く場周飛行 して時間を無駄にせず直線進入して着陸しなさい。
出来るだけ早く降りなさい。
もし飛行場を周回する余裕があるなら、もともと緊急着陸は必要なかったはず。
もしあなたが緊急通信を聞いたら、その空域から出なさい。
送信しているパイロットにチャンスを与え、パイロットの送信を邪魔しないこと。

f:id:minouta17:20200201190537j:plain

 
参考文献
P51操縦士訓練教本 https://sites.google.com/site/kumacbox/