日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

15-4 航空機無線兵器諸問題(資料)

15-4 航空機無線兵器諸問題(資料)
海軍通信作戦史 昭和24年3月 第二復員局残務処理部史実班からの抜粋
第3項 無線兵器
p118 (ホ)兵器関係の諸問題
1.戦闘機電話の能力向上
戦闘機用電話は空戦並びに邀撃戦を行う上に是非共必要なものであるにも拘わらず、余り良く通達しないとの理由で使用しない部隊が次第に増加し、亦元来戦闘機搭乗員は無線に対する観念に乏しく、兵器の不完全と云う点も影響したが、之をこなして活用しようと云う熱心な士官は微々たる状況で、之が戦闘機通信の不良の最大原因であった。
3式空1号が出て能力も向上し取扱も容易となったが、此の整備に力を注がず放置し、特に電磁遮蔽に意を用いない為に通達不良の部隊が大部分で、無線に就ては他機種よりも一段遅れた状態で終始した。
※ 3式空1号無線電話機

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p120 4.艤装状況の変遷
開戦当初に於ける飛行機艤装と云うものに対する考えは、操縦者関係のものを除いては唯取付ければ良い使えれば良いと云う域を出なかった。
特に通信関係の艤装は後に述べる理由の為に定められた数兵器を何とか空いた処を探してくっつけると云う程度であって、真に戦闘状態を考慮し或は電信員の飛行中の乗務と云うものを深く察して行われたものではなかった。
従って無線兵器を全幅活用してその全能力を発揮させるには至らなかった。
即ち艤装と云うものに対して一般に甚だ軽視していた訳である。
処が実戦の経過に伴い、艤装が戦闘に及ぼす影響が相当大きいものであることに気付き、更に新しい兵器の出現等の為に根本的に艤装方針の確立と云うことが叫ばれ、空技廠飛行機部の中に兵装班が誕生し、兵装艤装を専門に研究することとなった。
無線通信に就ても此処で研究も行ったが専門の士官が居らず、横空の職員が兼務する様な貧弱な陣容であった。
然し之によって艤装と云うものに対する観念が相当程度改められたことは事実で、亦其の後の試作機に於ける艤装は従前のものに比し改良された処が少なくなった。
然し乍ら一方、18年末頃より各部隊の人的素質低下に伴って、兵器の取扱が甚だしく粗暴となり、故障兵器が続出した為に兵器の信頼性を失墜して、遂には之を装備しない様な事態を惹起した処が多かった。
即ち各機種に於ける方位測定機、戦闘機用電話機、各機種隊内電話機等はその顕著なもので、殆どの部隊が之等の兵器を実用しないさまになり、まさに電信機のみが辛うじて操作されたと云う真に情けない状態となってしまった。
又飛行機会社の艤装工事も頗る悪く、特に機内配線が機体附属となってからは監督、検査不良の為に誤配線や高圧のアース或はボンディング不良が続出し、兵器の性能発揮に大いなる支障を来した。
此の様に事艤装に関しては、米独等に比し極めて立ち遅れた状態に終始し、之を立ち直ろうとしたが努力も各部の障碍の為に遂に実施し得ず終戦となった。
5.艤装不良の戦闘に及ぼした影響
電信機の艤装は艤装の中でも最も悪く、電信員は極めて使用し難い状態で兵器を操作し、又兵器の性能も大分抑えられたがその具体的の例を挙げれば左の様なものである。
①電信機の装備、緩衝不良に基づく雑音発生の為、受信困難若しくは不能に陥り重要電報の受信漏れを生じた。
②電信機位置不良の為に機上高空に於ける操作に甚だ困難を感じ、遂にこの為に調整粗漏となり受信漏れを生じた。(2式飛行艇、1式陸攻22型等)
③機内配線不良の為、飛行機受入後兵器が作動せず、整備に長時間を要し、又全然修復不能のものも相当あった、此の為作戦用飛行機を一部修理に割かなくてはならない必要を生じた。
➃発動機点火燈のシールディング及びボンディングが不完全な為に雑音が甚しく通信不能のものが多かった。
⑤取付支基の寸法が違う為、その都度現場合わせの必要を生じたことが屡々あり貴重な時間と努力を無駄にした。
6.艤装不良の原因
艤装が終始劣悪であった諸原因は種々あるが、左の如く大別して考えることができる。
(イ)艤装計画の欠陥
①兵装のみに重点を置き、それを如何に艤装するやと云うことに関して無関心な気風が瀾漫していたこと。
②艤装専門の研究部員が昭和19年迄無かったこと。
③無線儀装は特に実際に使用する搭乗員が下士官である関係上、適切なる改良意見を上申せず、又あるも途中にて無視され艤装関係者の耳に届かなかったこと。
➃無線兵器の設計、研究者は飛行機儀装に参画せず、単に与えられた重量、容積、能力のみを考慮して事に当たり、使用するものの実情に極めて疎かったこと。
⑤機体艤装の設計、試作に従事し、飛行機会社の電機関係技師は、無線兵器に関する知識は皆無に近く、況や之を取扱う等は思いも依らず、単に与えられた容積のものを空所に取付ける大工工事に過ぎず兵器の性能を発揮させる様な具体的意見を持ち合わせないこと、即ち飛行機会社には無線専門技師がいなかったこと。
⑥施策審査は概ね飛行性能審査に終始し、徹底した兵装審査特に無線儀装は後回しとなり、完成を急ぐために遂に行われなかった機種も多数に上ったこと。
⑦実用実験に於ける通信関係審査は、概ね士官自ら当たらず(19年以前の一部の器材は実施した)特務士官、下士官に放任された為、適切なる審査を行い得なかったこと。
(ロ)計画せるより遥かに艤装の不良であった原因
①飛行機会社に無線技師がなかった為、之を重視せず、工員が手を抜いても看破し得なかったこと、又会社自身も生産を急がせられると故意に手を抜いたこと(例、ボンディング線を装備しないものが屡々あった)
②現場合わせを要する工事が多かった。
③工事監督官は資材塊集に熱中し、肝心の生産機の検査を怠ったこと。
➃実施部隊に於て18年末頃より急速に技術低下し、正規の艤装を実施し得ななかったこと。
以上の様に原因は多数あるけれども、その最も根本的なものは艤装と云ったものを軽視して、その戦闘力に及ぼす影響に無関心であったことが最大原因である。
※ 96式空2号無線電信機

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参考文献
本邦軍用無線技術の概観 大西 成美
海軍通信作戦史 昭和24年3月 第二復員局残務処理部史実班