日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

WWⅡ米軍大型航空機用航法装置 簡易ロラン装置 RECEIVER INDICATOR R-65/APN-9 

WWⅡ米軍大型航空機用航法装置 簡易ロラン装置 RECEIVER INDICATOR R-65/APN-9 

Yahooオークションに令和2年11月たてつづけに2件の同型の簡易ロラン装置が出品されました。
残念ながら保存状態は悪そうなのですが、本機は第二次大戦末期の太平洋戦線の米軍の大型航空機に搭載された貴重品の簡易ロラン装置です。
今回は、本機「簡易ロラン装置 RECEIVER INDICATOR R-65/APN-9」に関して手持ち資料とネットの力で整理してみました。

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双曲線航法について
ロランA方式については、機能詳細は省略しますが参考資料を以下に添付します。
※ロランチャートに記載されている数値の単位はμsecのようです。
1600というと1μsec(1Mhz)が波長としては約300mですから、480kmとなります。これをマイル換算するため1.6で割ると約300マイルとなります。
参考資料の第2図は、3000μsecの遅延したパルスを送信することで双曲線を非対称性化する目的のようです。

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AN/APN-4の資料のほうがロランの取扱方法がよくわかるので先に添付します。

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次に、この後継機であるR-65/AN/APN-9です。

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なお、日本では大戦末期の陸軍でも双曲線航法装置が開発されていました。
双曲線航法装置 タチ39とタキ39
昭和19年(1944年)半ば頃英軍の欧州方面、米軍の太平洋方面に於ける双曲線航法装置に関する技術情報を入手し、これに刺激せられ我方としては「サイパン」攻撃等の場合を考慮し急速に白浜-箱根-御前崎を基線とする施設を設けることとなり、それら地点に1Kw送信機を設置し、これを逓信省式超短波軽多重通信機を以て連結し、完全なる同期送信を行う如く計画を進めた。
そして第四航空技術研究所の援助及び海軍側の協力の許に試作即戦力化を期して完成に努めたのであるが、竣功を見るに至らずしてしまった。
地上部 タチ39
周波数1.5-1.75Mc、尖頭出力150Kw、航法可能距離昼間900Km、夜間3000Km、重量600Kg、試作会社住友通信、概成、一部建設中のところ被爆焼損。
機上部 タキ39
周波数1.5Mc、測距離精度正負1%、重量50Kg、試作会社日本無線、研究済、とりあえず教育用仮作機により教育実施中。

日本無線史<第一部> 昭和47年2月発行からの抜粋
日本電気株式会社(住友通信工業株式会社)の項のなかに下記の記述があります。
タチ39号装置 中波双曲線航法装置、地上設備 1式

日本無線社史 55年の歩み(昭和46年6月発行)からの抜粋
電波高度計とロラン受信機
前者に対しては、高高度用を研究し、純国産技術により完成し、生産を行った。
更に、終戦に近く、ロラン受信機の研究に着手したが、これは試作機の完成をみるに留まった。

 

戦史叢書 陸軍航空兵器の開発・生産・補給からの抜粋
双曲線航法装置
米軍の太平洋装置に刺激されて、サイパン島攻撃機および航法援助のため、20年2月多摩研は双曲線方向装置の研究に着手し、関東及び九州地方に各1組の設置を開始した。
戦災により工事は進まず、終戦直前に関東地方だけは建設にの大部を終了した。
主局を箱根鞍掛峠、従局を白浜(千葉県)及び御前崎に置き、この間の連絡は逓信省の超短波軽多重電話を使用するこことし、海軍及び第四航空技術研究所の協力を受けて完成に努めた。
20年7月ごろ、キ-74で、これを使用する訓練を行った。

キ-74
本機は20年5月末までに第8号機まで完成したが、発動機に油漏れが多く、かつ排気管から煙を噴く傾向があって審査が遅延し、そのうえ試作生産工場が被爆したため、第10号機以降はハ-104ルに変更して試作を促進することになり、その初号機を6月上旬完成させる予定であった。
装備としては試製遠距離無線機(ム5)、方向探知機、電波妨害機を搭載すること、食糧は1週間分を積載することなどが決定された。

 

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参考文献
HANDBOOK OF OPERATING INSTRUCTIONS RADAR SET for AN/APN-9

LORAN CHART 双曲線航法の現状と将来 沓内、坂戸、中条
Yahooオークション情報 オークションID:r447027153
日本無線史第九巻
日本無線史<第一部> 昭和47年2月
戦史叢書 陸軍航空兵器の開発・生産・補給 防衛庁防衛研修所 戦史室著
日本無線社史 55年の歩み(昭和46年6月発行)