日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

3.陸軍軍用無線機材の種類

3.陸軍軍用無線機材の種類
 
陸(空)軍における無線機は極めて多種多様にわたっているが、正式として制定したものは野戦用、移動用無線器材に限られており、遠距離用固定無線機については一般用のものを準制式品として採用したため、特記の要はない。
移動用無線機にあっては、①軍通信隊用 ②師団通信隊用 ③対空用 ➃騎兵用 ⑤車輛(戦車を含む)用 ⑥舟艇用 ⑦歩兵用 ⑧砲兵用 ⑨機上用 等の種類がある。
軍通信隊用は概ね100~500Kmの通信距離を有し、移動用器材のうち大型の部に属する。
乙種移動式無線機、87式1号、同2号、94式1号、2号乙等がこれに属する。
師団通信隊用、騎兵用は通信距離30~100Km程度のもので15年式3号、94式3号機等で、電信専用である。
対空用には航空部隊の対空指揮用(87式対空1号、同2号、94式対空1号、2号、地各号等)、砲兵、騎兵、師団通信隊対空用(94式3号丙)等があり、何れも電信、電話両用である。
車輛用にはVHF使用のものと、HF用のものとあり、何れも比較的短距離の使用を目的とし、電信、電話両用である。
歩兵用として、94式5号、同6号機がある。
何れも小型であって、第一線使用を可能ならしめる。
5号機はMFを使用、電信電話両用、6号機はVHFを使用、電話を主とする。
このほか、航空機の誘導、敵通信所の標定、スパイの摘発等のための地上用、および航空機の航法用のための機上用の方向探知機がある。
初期においては長、中波のみがその対象として測定可能であって、94式1号型特殊受信機、飛1号、同2号方向探知機が制定されたが、短波の利用が拡大されるにつれて、アドコック、U型空中線等を使用するやや近代的の方向探知機が制定された。
これが94式5号特殊受信機、地1号方向探知機等である。
昭和18年、敵通信所を標定し、これに対して地域射撃を行い殲滅せんとして特殊受信機乙4号が制定されたほか、ジャングル戦斗、或は舟艇機動作戦時における方向標示用として簡易な方向探知機、ビーコン送信機等が研究され、一部使用された由である。
敵通信の傍受、暗号の解読による情報の収集を企画して、敵信傍受用機材が制定された。
海軍においては、敵通信の送信波形をオシロスコープに表示して、その波形の特徴により、艦船の判定にまで及ぼすことを目標とした様子であるが、陸軍においては通信系の判定、方向の標定、及び暗号の解読に努めるに止まったのである。
このため或は正式器材の受信機、市井販売の受信機等も利用されたが、専用の傍受機材として、94式3号型が昭和11年に、続いて昭和17年に特殊受信機甲が完成した。
何れも乾電池使用の受信機であって、長波受信機(オートダイン、周波数範囲30~2,000Kc、但し94式にあっては12~2,000Kc)、短波受信機(スーパーヘテロダイン、周波数範囲1~20Mc)の各1台より構成されている。
敵の無線通信を妨害し、その通信指揮を混乱におとし入れる目的をもって妨害機の研究がすでに昭和8年より開始され、同12年には移動用妨害機として竣工したのであったが、更に17年に特殊送信機として完成した。
送信周波数140Kc~15Mc、主発振による出力1Kw、0.4、0.7、1.1Kcの3周波によるグリッド変調を加え、更にタンク回路のコンデンサーをモーターにより回転して発射周波数に数%の変動を与えるジャミング送信機である。
指向性送信空中線として1.5Mc以上の周波数にはV型アンテナも使用された模様である。
その外、秘密通信機、書画電送機、高速度通信機、テレタイプ、VHF多重通信機、SSB通信機、テレビジョン等も研究されたようであるが、何れも或は実用の域に達せずして正式制定に至ることなく、また多くの固定通信用として試用されたもので多くの資料を有しない。
所謂電波兵器として、VHF(或はUHF)を使用し、敵飛行機、艦船の探知、標定に使用したものは、研究の開始に於いて外国よりおくれたが、昭和15年頃より超短波警戒機甲として試用された。
これはドップラー効果を利用した線警戒機のもので、400W、100W、20W、10Wの4種があった。
更に開戦直前の昭和16年に至り、パルス式による前方警戒用の超短波警戒機乙が完成したが、実際にこれを銚子に設置し、運用可能となったのは17年6月であって、ドゥリットル機動隊による東京空襲の時には、その直上を飛行されながらも、利用出来なかったものである。
超短波警戒機乙には、要地用、野戦用、船舶用の3種があり、野戦用は自動車3輛に積載され、移動が可能である。
この外、警戒機の標定精度を向上して、射撃用として試用した標定機、探出した目標が友軍のものか敵に属するものであるかを標示する彼我識別機、敵電波兵器の使用をさまたげ、我被害を軽減するための妨害機等が或は試作され、または運用された模様である。