日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

ハリクラフター社SX-28型15球全波受信機の機構と性能について

ハリクラフター社SX-28型15球全波受信機の機構と性能について
日米開戦時の昭和16年に民生品として開発された最新鋭の通信型受信機ハリクラフター社のSX-28に関する詳細な説明が当時の無線雑誌「無線と実験」に掲載されています。
本機の出所としては、日本国内の新聞社や通信社等が輸入したものか、国内メーカーが研究目的で輸入したものか、全く不明です。
ただし、時期を考慮すると、初期占領地であるフィリピンやシンガポールからの接収品ではありません。
日米開戦による国民の戦争不安を和らげるためなのか、米国の最新鋭の受信機をわざと公開し日米間の技術ギャップがないとの宣伝が目的のようです。
本寄稿は、以下の「結言」で終わっています。
我が国の一流受信機製作者が、本機から特に学ぶといふ点はあまりないかも知れぬが、よく理論を実際に移してある点に就いて学ぶべきところがあるであろう。
なお、ダイヤルやバンド切換の機械的機構が日本での技術的課題であるとの重要な指摘と意味不明な戦意高揚の文章で終わっています。
日本では、終戦までに、この民生品(※米軍も優秀機であったため、このまま軍でも多く使用していました)の受信機の複製品や同等性能の高級受信機(※受信周波数を直読する努力が全くない!)を製作することは出来ませんでした。
このメカトロニクス技術については、戦後テープレコーダーからVHSレコーダの開発・生産でやっと開花することになりました。
以下、「無線と実験昭和17年4月」からの抜粋です。
“スーパー・スカイライダー” SX-28型15球全波受信機の機構と性能
東邦電機株式会社・無線部長 住吉 正元
1.緒言
通信型受信機の改良進歩は近年頃に著しく、我が国に於いても、一流メーカーは競ってこの研究に拍車をかけているやうである。
通信相互間の経済的見地からいつでも、送信機の電力増加を計るよりも、受信機の能率を向上せしめる方が得策である。
また一方、周波数帯に不足を痛感せられる今日、徒らに大電力を以て空中を攪乱するのは、大いに時代錯誤といはざるを得ない。
この意味に於て、今回米国ハリクラフター会社製の1941年型として発売された“スーパー・スカイライダー”SX-28型受信機に就いて詳しく調査する機会を得たので、その概要を茲にご紹介することにする。
本機は通信型受信機として、かなり高級な機構を具備しているので、諸兄の参考となるべき点も少なくないと思われる。

・本文省略(イメージデータ参考のこと)

6.結言
以上で、SX-28型受信機の機構、その他に就いて概略を述べたが、我が国の一流受信機製作者が、本機から特に学ぶといふ点はあまりないかも知れぬが、よく理論を実際に移してある点に就いて学ぶべきところがあるであろう。
即ち、要は機械的研究にある、ダイヤル等各部品については、いつまでも無線技術者の知識のみに委ねず、この道に優秀なる機械技術者を参加せしむることを切望する。
今や大東亜戦争は、御稜威の下、忠勇無双な皇軍将士滅死の奉公によって、刻一刻と戦果は拡大せられ、それと共に広大なる占領地域の治安は日一日と回復されている。
業者諸家は、この光輝ある戦捷の秋たり、“明日の市場”へ送るべき高級機の研究・作出念されむことを、茲に併せて切望する次第である。
 
参考文献
本邦軍用無線技術の概観 大西 成美
無線と実験 昭和17年4月号 誠文堂新光社
TM 11-874 RADIO RECEIVER AN/GRR-2 (HALLICRAFTERS MODEL SX-28-A)
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