日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

7.海軍無線技術の特色

7.海軍無線技術の特色
海軍においては、無線技術はほとんど唯一無二の通信手段として重用され、その成否は直接軍の作戦行動、戦果に連なるものとして、陸軍に於けるよりも重視された模様である。
また、海軍はその発生過程より英海軍を範とし、その影響を受くることが多かったためか、実施部隊の意見を率直に統御機関に於いて取入れることもあり、無線機器においても、装備の特性上小型軽量化よりも通信性能に重点をおくなど、特色ある点も少なくなかった。
海上通信において、短波通信と共に中長波による通信をも必要としたことにより、中長短波用のいわゆる全波送受信機が考案され、中長波として高周波2段増幅のストレート受信方式、短波受信に際してはこの前に高周波増幅段及び周波数変換部を附加したスーパーとする受信方式が採用され、艦船用或は陸上用として主用されたことなどはその一つである。
また、艦船の位置の秘匿のために、規定された多種の周波数のうちの1つを短時間発射し、またその周波数を各実に受信するため、および通信の大部を放送という型式にて行ったため、規定周波数の確実な待ち受け受信を実施する必要があった。
そのため発射或は受信周波数の規正のために大きな努力が払われたようである。
海軍航空にあっては、小型機に至るまで長距離の行動を必要としたため通信器材の性能も高く、しかも行動は海上に多く、目標となり得る地物に依ることは望み得ない作戦地において、進攻、帰投のために無線方向探知による航法が大きく要求され、関係器材も整備されて居た。
海軍における無線兵器の名称は次の如く構成せられる。
 
1.式別 海軍と同じく大正年間までは制定の年号により何年式と称したが、昭和に入っては皇紀年号の下2桁の数字を以て表示した。
海軍無線兵器は部内造兵廠、研究所に於いて製造するを建前として居たが、輸入或は民間会社に於いて製造したものは欧文字又はカタカナ文字を以て式別を表示している。
英マルコニー社製のものはM式、独テレフンケン社製のものはT式、米RCA社のものはA式、クルシー社製はク式、東洋通信機会社製のものYT式、東京無線電機社のTM式というが如きである。
 
2.周波数別 海軍に於いては周波数の呼び方は次によっていた。
長波      600Kc以下
中波      600 ~ 3,000Kc
短波      3 ~ 30Mc
超短波     30 ~ 300Mc
極超短波    300Mc以上
兵器の名称として、短波用は短、中、長、短波兼用は特と称し、長波用はこの文字を附けない。
 
3.号別 送信機においては出力(大正年代までは入力)によって概ね次の基準により号別名称を附した。
03号         150Kw
02号        50Kw
01号        15Kw
1号          5Kw
2号          2Kw
3号          1Kw
4号          500w
5号          250w
6号               50~100w
7号                     5~10w
送信機以外にあっては、用途により号別が附けられた。
航空機用にあっては昭和10年以後次の如く統一せられた。
空1号      単座機用
空2号      2座機用
空3号      3座機用
空4号      多座機用
空5号      基地用
空6号      レーダー(秘匿名称)
空7号      逆  探(秘匿名称)
空8号      落下傘部隊用
空9号      救命艇用