日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

8-3 短波送信機

8-3 短波送信機
 
8-3-1 15式2号、4号、5号送信機
いずれも大正15年に制定された艦船用短波送信機で、その出力周波数は次の通りである。
15年式2号送信機 出力2KW 周波数 3.7乃至20Mc 甲は自励式、乙は原振器附
15年式4号送信機 出力500W 周波数 2.5乃至15Mc 自励式
15年式5号送信機 出力350W 周波数 2.5乃至15Mc 自励式

8-3-2 88式短4号送信機
概要
昭和3年制定された出力500Wの自励式短波送信機で、同改1と称せられるものは、最初制定されたものの電鍵方式を改良したものである。
この送信機に発振器を附けたものを88式短4号送信機発振装置附と呼ばれたが、これは水晶制御原振器及び多段増幅器によって88式短4号送信機を最終増幅器とした短波送信機である。
88式短4号送信機  出力500w

f:id:minouta17:20200429200231j:plain


8-3-3 89式短5送信機
概要
昭和4制定された出力250W自励式短波送信機である。
同発振装置附と呼ばれるものは88式短5号送信機を最終増幅器とし、これに水晶制御原振器及び多段増幅器附発振装置附を附加したものである。
89式短5号送信機  出力250w

f:id:minouta17:20200429200335j:plain

8-3-4 YT式短3号送信機
出力1KWの自励式短波送信機であるが、明昭電機株式会社の製作にかかるものである。
使用周波数 4,000 ~ 15,000Kc
構成は、原振、増幅方式の電信専用である。
使用真空管は、発振器UX-202A、増幅菅UV-814、12号発振(UX-860)、電力増幅UV-812、整流菅HV-972、KN-158、HX-966である。
※ 東洋無線電信電話株式会社と明昭電機株式会社は姉妹会社であるが、両会社は昭和13年11月に合併して、資本金400万円なる東洋通信機株式会社となった。
同社製一連の無線機は“YT式”と呼称された。

f:id:minouta17:20200429200403j:plain

f:id:minouta17:20200429200417j:plain

f:id:minouta17:20200429200428j:plain


8-3-4 YT式短4号送信機
概要
出力500W又は250Wの自励式短波送信機であるが、明昭電機気株式会社の製作にかかるものである。
同1型は出力250Wで、石油発動機附発電機を電源とし、同2型は出力500Wで電動直流発電機を電源とするものである。
YT式短4号送信機  出力500w~250w

f:id:minouta17:20200429200450j:plain


8-3-5 特90式短1号送信機
概要
昭和5年に制定された陸上用15KW、電力増幅式短波送信機で、水晶制御原振器及び多段増幅器附で、電力増幅器には水冷式電球が使用されている。
旧名は単に90式短1号送信機であった。
その構成系統図は第3.18図を以て示される。
これが船橋送信所に装備された後、満州事変勃発し、繁忙な通信処理に大いに役立った。
特90式短1号送信機  出力15Kw 陸上用 水晶制御
 
 

8-3-6 90式短2号送信機
概要
昭和5年の制定にかかる陸上用水晶制御原振器及び多段増幅器よりなる1.5KW短波送信機である。
同改1と称せられるものは電源装置が変更されたものである。
90式短2号送信機  出力15Kw 陸上用 水晶制御

8-3-7 92式短2号、短3号、短4号送信機
概要
昭和7年の制定にかかる92式送信機のうち、短2号機は陸上用出力3KW、自励式原振器附単一制御式短波送信機で、旧名は92式3吉短波送信機である。
同短3号送信機は出力1KW、水晶制御原振器、自励式原振器及び多段増幅器よりなるもの、同短4号機は出力500W、水晶制御兼自励式原振器及び多段増幅器よりなる電力増幅式短波送信機で、これに楽音装置が附加されている。
92式短2号送信機  出力3Kw 陸上用 MOPA
92式短3号送信機  出力1Kw 水晶及び自励-PA
92式短4号送信機  出力500w 水晶及び自励-PA

8-3-8 92式短無線電話機
概要
この電話機は出力300W、水晶制御兼自励式原振器及び多段増幅器よりなる短波無線電話送信機と、高周波2段増幅、再生検波、低周波2段増幅の受話器とよりなり、楽音送信可能のものである。

8-3-9 YT式短無線電話機
概要
出力300W、自励式送信機と高周波2段増幅、再生検波、低周波2段増幅の受話器とより成る明昭電機株式会社製の短波無線電話機である。
同水晶制御附の名称のものは、上記の送信機を水晶制御兼自励式原振器及び多段電力増幅機附に改良したものである。

8-3-10 95式短3号、短4号、短5号送信機
概要
志那事変以来、艦船の短波通信は主として本機に依ったものである。
これらの送信機は主として電波安定性の見地から、電力の大きな増幅段で電鍵操作を行っていたが、間隙受信を容易ならしめるために、第一増幅器で電鍵操作を行うこととし、これに伴う改装を現装兵器にも実施するこことなり、この改造を施したものを95式短3号、短4号、短5号送信機改1と呼ぶこととした。
又周波数変動(初期漂変その他)更に少しからしめる目的から、原振管UX202A(三極管)をUY807(ビーム管)に換え、所要の改造を施したものを、95式短3号、短4号、短5号送信機改2と呼んだ。
95式短3号送信機  出力1Kw 4~20Mc
           終戦後警察無線において、警短3号と称して使用された。
95式短4号送信機  出力500w 3.75~18Mc
          自励又は水晶発振807-865-814-860-861
          終戦後警察無線において、警短4号と称して使用された。
95式短5号送信機  出力250w 3.75~18Mc
 
 
8-3-11 95式送話増幅機
概要
95式短波送信機はA1電波のみ発射し得るものであるが、A2及びA3電波をも発射可能なようにとの要求が強くなったため、一つの変調増幅機を設計製造し、これらと組合せ使用するここしたのが、95式送話増幅機であり、周波数特性並びに変調度実用上、我慢の出来る程度の機器である。
従って例えば95式短波送信機又は2式中5号送信機を、この増幅機と併用すれば、それぞれ短波又は中波の無線電話機送話機として使用し得るのである。

8-3-12 97式短1号、短2号送信機及び同短01号送信機
概要
陸上電信所用として水晶自励兼用原振器附周波数逓倍多段増幅型出力5KW(短1号)及び15KW(短01号)の短波送信機を住友通信工業株式会社に発注し完成を見たものが本送信機で、当初2、3の故障に悩まされたが、会社側の努力により改善され、広く使用され、量産せられた。
右の外短2号送信機がある。
これは性能に於いて、上記の短1号と同じであるが、出力が2KWである。
97式短01号送信機   出力15Kw 陸上用 5~25Mc
97式短1号送信機   出力5Kw 陸上用
97式短2号送信機  出力2Kw 陸上用 4~20Mc
 
8-3-13 97式短6号送信機
概要
本機は潜水隊々内通信用として要望せられていた電信電話兼用の安定装置附短波送信機であって、周波数3,000乃至 10,000Kc、出力はA1電波で30W、A3電波で8Wであり、周波数安定度は95式短送信機に優る。
97式短6号送信機  出力A1 30w、A3 8w 3~10Mc 潜水艦隊内通信用

8-3-14 99式短2号送信機
概要
空中線電力2KWの陸上短波送信機を住友通信工業及び東京芝浦電気の両社に発注し、管制を見たものが97式短2号送信機1型及び同2型である。
水晶自励兼用原振器附周波数逓倍多段増幅型で、いずれも実用には適するものとはなったが、両社それぞれ特徴あり、一長一短いずれを採用すると云う訳に行かないので両者の長所を出来るだけ多く取り入れて新しく送信機を纏め上げることになった。
この方針によって、東京芝浦電気株式会社で製作したのが、99式短2号送信機であり、周波数安定度も良く、電波調定所要秒時も余り大きくなく、全体として改善せられている。
即ち当初艦政本部当局としては両社競争的に特徴を発揮させ、完成の上いずれかを採用する意図であったが、これは早く制式を決定するには上策とは謂えぬ。
最初からいずれか一社に発注し、海軍技術研究所と緊密に協力させて設計製作したら、より早く本機は完成したものと考えられた。
なお本機及び後述の陸上用短波送信機は、いずれも周波ダイバーシチーによりフェージングの影響を削減するために10万分25程度のウォブリングを行うようになっている。
99式短2号送信機  出力2Kw 陸上用

8-3-15 99式短02号送信機
概要
陸上用大電力短波送信機として東京芝浦電気株式会社に発注せられたのが本機である。
周波数範囲5,000乃至 25,000Kcで20,000Kc以下の場合には、出力50KW、20,000Kc以上では25KWである。
本機の電力大きく、周波数範囲が広いために、真空管並びに構成部品の配列に少なからず苦心を重ね、完成までには相当の日子を要した。
本機の高周波部は励振機盤、中間増幅機盤、電力増幅機盤に分かれ、且つ電力増幅機盤は周波数の高い方と低い方とを別にしたので、結局4盤面から成り立っていた。
なお負荷試験は工場内では十分行い得なかったので、船橋送信所に装備の上実施したのであるが、本機製造及び装備工事全期間を通じ、関係者の努力は誠に大きいものがあり、太平洋戦前に無事公試を完了することが出来た。
99式短02号送信機   出力50~25Kw 5~25Mc 陸上用

8-3-16 99式短3号送信機
概要
95式短3号送信機の性能向上型として電波安定度を更に高くし、妨害(漏洩)電波を抑制して、間隙受信を容易ならしめ、主要調整箇所を2箇所に減少して、電波転換所要時を20秒程度に短縮したもので、日本無線電信電話株式会社で生産し、部隊に供給せられたものである。
99式短3号送信機  出力1Kw

8-3-17 3式短4号送信機
概要
99式短3号その他艦船用送信機は、大幅に駆動機構を使用し、電波転換の迅速確実を期する方向に進んだために、ギャー等機械工作を必要とする部分が多く、又較正素材にアルミニウムを使っていたが、時局の関係からギャー等を省いて、工作を簡単容易ならしめ、且つアルミニウムを鉄に置き換えて、戦時型送信機として東京芝浦電気株式会社に設計製作せしめたものが3式短4号送信機である。
3式短4号送信機   出力500w
 
参考情報

f:id:minouta17:20200107123649j:plain

f:id:minouta17:20200107123700j:plain

f:id:minouta17:20200107123716j:plain

f:id:minouta17:20200107123730j:plain

f:id:minouta17:20200107123740j:plain

f:id:minouta17:20200107123752j:plain

f:id:minouta17:20200107123801j:plain

f:id:minouta17:20200107123812j:plain

f:id:minouta17:20200107123826j:plain 

 
参考情報
明昭電機会社について
1938年吉村商会をそれぞれ継承した東洋電信電話株式会社と明昭電機会社が合併し、東洋通信機株式会社(トヨコム)を設立
ウォブリング
ウォブルは英語で、日本語に直訳すると「ぐらぐらする」「震える」「動揺する」などの意味になる。
 
参考文献
本邦軍用無線技術の概観 大西 成美
日本無線史 第十巻 電波監理委員会
日本無線社史 55年の歩み
船の科学 シリーズ・日本の艦艇・商船の電気技術史 艦艇の無線兵器および電波兵器