日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

4-4-10 車輛無線機丙

4-4-10 車輛無線機丙
研究の由来及び目的
昭和16年(1941年)4月新たに研究項目に加え、研究に着手した。
その目的は戦車部隊内の短距離電話通信に適する無線機をを創出するのを目的とした。
構造及び機能の概要
通信機は送信機、受信機、附属品、予備品等より成り立っている。
通信機及び電源用直流変圧機は3式車輛無線機乙の筐体と同大の筐体を用い装備を容易ならしめてある。
空中線は垂直型で障碍物(地物による)による自動起倒式である。
饋電線は長さ約3mの高周波同軸ケーブルを用いる。
本機の重要諸元は次の通りである。
用途   戦車相互用
通信距離 行動間 A3 500m
周波数  20~30Mc
送信機  出力   A1 A3 1w
          OSC  PA
     真空管 807A-807A
         807A 807A↑(プレートスクリーン同時変調)
         Cal  Mod
     電源  24V蓄電池及び400V150mAコンバーター
         400V150mA
受信機  方式 スーパー RF1 IF1 AF2
         RF  Conv  IF  Det   AF  AF
     真空管 6F7(5)-6F7(5)-6F7(5)-6F7(5)-6F7(3)-6F7(3)×2
                        6F7(3)↑     6F7(3)↑
         6F7(5)-社内通話用増幅
          電源  送信用を共用
空中線  2m垂直型
較正用発振部  3Mc水晶片を使用し、21、24、27、30Mcにおいて自励による主発振を較正する。
研究経過の概要
戦車の運用法に変革を来したので、車輛無線機乙はその用途少なくなり、代わって本機を追加研究するに至ったのであるから、本機の急速なる研究完成は用兵上の要望であった。
そして兵器の研究整備の常道である研究-制式-整備の順序を迫っていたのでは多大の日時を要し、到底本機急速整備の要求に合しないので、試作と併行して整備にも着手されたのである。
換言すれば試作は従来行っていた対向二機の原則に依らず多数試作としたのである。
従来超短波或はこれに近い短波帯の通信機に於いて、受信機は主として超再生方式を採用し、以て最前線用無線機の構造を簡易ならしめた。
然るに超再生方式受信機では、狭小地域で多数機を使用するに適さないので、理想としてはスーパーヘタロダイン方式としたいのであったが、未だその経験がなかったので本機研究に就き示された試作100機の内その半を超再生式、半をスーパーヘテロダイン方式とし、応急整備の主旨と機能完備の希望とを案配した次第である。
昭和17年(1942年)6月試作二機竣工、爾後二回の改修を加え、これを残余の整備機に取入れつつ、昭和18年(1943年)2月実用に適する域に到達せしめた。
研究の結果
本機は前述の如く短期間に実用に適するように研究完了したので、制式制定に先ち200機の整備を見、急需を満足せしめた。
而して制式制定の準備中終戦に際会したので終に制式とはならずに終わったのである。
無線機全体構成

f:id:minouta17:20190702085409j:plain

送信機とスーパーヘテロダイン方式の受信機一式

f:id:minouta17:20190702085431j:plain

f:id:minouta17:20190702085443j:plain

f:id:minouta17:20190702085453j:plain

別方式の送信機(但し未確認)
 
参考文献
本邦軍用無線技術の概観 大西 成美
日本無線史 第九巻 電波監理委員会
JAPANESE RADIO COMMUNICATION EQUIPMENT TME11-227A
Yahooオークション出品商品