日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

4-4-12 地1号無線機

4-4-12 地1号無線機
遠距離飛行機用無線機と対向し通信距離1,000Kmを確保するものとし、飛行機に依り運搬可能なるものとする。
空中線電力は約500ワット。
本機の重要諸元は次の通りである。
用途   対空用及び固定用
通信距離 対飛行機1,000Km
周波数  1型受信機 140Kc~20Mc
          2型受信機 2.5~13.35Mc     
送信機  出力   A1 1.1Kw A2、A3 400w
           OSC    Buff    PA
     真空管  UY-511B-UV-1089B-UV-815×2
            Ut-6L7G-UZ-42-UV-845↑
             AF   AF   Mod(グリッド変調)
     電源  8HP単気筒2サイクルガソリンエンジン
         15V50A発電機
受信機  方式 スーパー RF2 IF2 AF1
         RF  RF  Conv IF  IF  Det AF 
     真空管 6D6-6D6-6C6-6D6-6D6-6B7-6C6
                      76↑           76↑
             Osc            BFO
     電源  6V蓄電池及び250Vコンバーター
     線輪1 140~250Kc
     線輪2 250~450 Kc
          線輪3 450~820 Kc
          線輪4 820~1500 Kc
          線輪5 1.5~2.7Mc
          線輪6 2.7~4.7 Mc
          線輪7 4.7~8.5 Mc
          線輪8 8.5~13.35 Mc
          線輪9 13.35~20.00 Mc
空中線  逆L型 H=12m L=35m又はダブレット
地線   地網4枚
本機受信部は米国HRO受信機を参考として設計せられたるもののようである。
1型は中間周波第2段の後に水晶濾波器を有していたが、2型においてはこれを廃して低周波フィルターを使用する如くしてある。
また受信機のみをム65型受信機と称して整備した模様である。
 
送信機接続要領図と送信機

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受信機全体概観と開発状況の変遷

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地1号無線機受信機
昭和13年から14年に製造された初期型であり、水晶濾波器、AVCなどを装備している。
なお、空中線端子は単線式の逆L型のみの対応となっている。

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地1号受信機
空中線端子を2個としてダブレットに対応するように改良されている。
なお、オーバースペックか生産性向上のためなのか不明であるが、IFT接続端子をエッジ型からプラグイン方式に変更されている。
銘板の仕様から推測すると終戦間際まで、本仕様で生産されていたと考えられる。

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地1号受信機(2型)
地1号受信機を1型とすると、2型は長、中波帯のバンドの線輪1~4を廃し、短波帯のみの運用の設備としている。
なお、生産に関する小規模の改善(取手の形状変更など)を実施している。

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ム-65改受信機
地1号受信の受信性能を犠牲にしてでも、生産性向上や資源枯渇対策として、水晶濾波器からオーデオフィルター変更、IFT端子の形状変更、AVC回路の廃止などを実施している。
なお、周波数は1型受信機と同様に140Kc~20Mcに対応している。

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ム-65改受信機(2型)
ム-65改受信機を1型とすると、2型は長、中波帯のバンドの線輪1~4を廃し、短波帯のみの運用の設備としている。

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このような生産事例から地1号受信機からム-65改受信機へ生産移行が図られたのではなく、各部隊からの要求により、要望の仕様の受信機の生産を個別に実施していたようだ。
最後に外務省の事例を示すが、戦時のメーカーの疲労が手にわかるような馬鹿げた事態ではないだろうか。

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参考情報(外務省での使用例)
オークション出品者情報 
第二次大戦の終わりかけの昭和19年に製作された「地一号」受信機。
当時の日本の技術力の粋を集めて設計・製作された物で当時としては秘密兵器扱いされた物です。
この受信機の可搬型で軍隊仕様のもの(ム65改と言う名前で野戦用)もありますが、この受信機は完全に民生用です。
この受信機は安立電機製作所が作った物で、完成後、外務省に納品され、在外公館との連絡や外国の放送・通信の傍受に使用されました。
ほぼ、原型を留めていて改造のあとはありません。
交換線輪は10KHzから30MHzまで全部そろっています。
全て樫木製の箱に収まっています。
15年前まで稼働していました。
今回転宅のため涙を飲んで手放します。
出来れば取りに来ていただきたいのです、送るには荷作が大変です。
でもこの受信機はおそらく原型を留めている日本で唯一の物です。
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受信機用移動用電源 

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参考文献
本邦軍用無線技術の概観 大西 成美
日本無線史 第九巻 電波監理委員会
これなあに? http://core.kyoto3.jp/
米国国立公文書館
旧日本軍無線機 etc. / WW II Japanese Military Radio etc
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