日本帝国陸海軍無線開発史

大西成美氏の「本邦軍用無線技術の概観」をベースに資料追加

4-3 94式各種機材

4-3 94式各種機材
短波による通信の実用性が開発確認されて、これによって使用可能周波数が大巾に多数となり、また技術の進歩により小型軽量化が可能となるに至ったので、昭和6年より研究を重ね、同11年制定された比較的近代的な一連の器材である。
15年式乃至88式が外国無線機そのまま或はそのコピーであったため、軍の要求に応ずる機材の決定にあらずして、見本機材に適応した用途の割付けという結果であったのに比し、初めて軍の要求に応ずる設計製作になる無線機が制定されたわけである。
設計の方針として
1.真空管、部品の統一
将来戦における無線機の要求が極めて多数にのぼることが予想されたので、補給、整備の点より見て消耗度の高い真空管、部品、乾電池等について極力これを統一しようとする考え方の表れである。
すなわち、受信管として乾電池用のUF134(高、中間周波増幅用4極管)、UZ135(周波数変換用7極管)、UF109A(万能3極管)、UF111A(検波用低インピーダンス4極管)、UY133A(低周波増幅用5極管)、UZ133D(109A4と133Aを同一エンベロープ内に収容した複合菅)等が開発された。
何れもEf1.1Vの直熱菅であり、gmが比較的低い欠点はあったが回路設計により大きな欠点を表すことはなかった。
このほか、UZ-30MC(6号機に使用の双3極管)、UZ-12C(5号機に使用された双3極管)等は陸軍々用として特に製作された。
蓄電器用の受信管としては、UY76、UZ77、UZ78、Ut6A7、Ut6B7、UZ-41等が多く使用された。
送信菅としては4極管、5極管が主用され、UZ510Bと称する10W出力管が開発されたが、UF210B等の3極管も使用された。
部品については、抵抗器は炭素被膜型、固定蓄電器はマイカ型の0.01μF及び250pFが多く使用され、大容量を必要とするものにおいてはこれらを並列しようする等の手段により、第1局発回路のトラッキング用直列蓄電器に特殊容量のものを使用するほか、ほとんどこの2種類によって要求を満しておったもののようである。
低周波変圧器、チョークコイルは、特に高級なニッケルアロイ鉄心を使用した小型のものが、河津無線研究所を中心として製作された。
その電圧比も1:3.5および1:1のものを主都市、マイクロフォン入力整合用として1:20のものと共に、各機器共通に使用されていた。
受信電源用乾電池もA電池として平角3号及同4号、B電池としてB4号(45V)及B18号(22.5V)、C電池としてC4号及C129号の各2種類のみを使用するこことしている。
2.送信機、受信機は分離使用可能なるごとくする。
前制定の各種機は何れも送、受信機が一体に構造せられておるため各単独の使用、又は送受信所を分離してリモートコントロールを行うことができなかった。
本制定機においては、3号甲、乙及び6号機を除きすべて単独使用が可能なる如く構成され、司令部、通信中枢など多数機が集中開設せられる場合に送、受信所地帯を分離して円滑に通信が出来るようになった。
3.送信機はVHF用を除き水晶制御方式とする。
短波帯の使用に伴い、発射周波数の安定を図るため、水晶制御を主とする。
勿論発振子不良等の場合を考慮して、水晶片を抜けば自励発振も可能であるように回路は構成されている。
今日の常識よりすれば、戦斗間に無線系を構成し円滑なる通信の実施を可能ならしめるために取った手段として極めて常道であったが、本機材の調査研究が行われた昭和の初代にあっては、水晶発振子は主として固定用の大型機のみに使用され、船舶用その他中型機以下にあっては殆ど自励発射、やや進歩した無線機に於いて初めてMOPA方式が採用されていた頃としては、移動用小型無線機に水晶発振方式を採用したことは画期的な進歩であった。
事実今次大戦中の仏、英軍、および米軍の無線機の大部は自励発振方式をとっていた様である。
ただし、発振子として試用できる単結晶の推奨が日本国内では産出されず、遠くブラジルよりの輸入にまつの外なかったので、戦時所要量の増大を見越してストックされた原石も底をつき、次期機種においては水晶制御方式の採用が抑制されるに至った結果となった。
4.受信機はVHF用及び最前線用を除きスーパーヘテロダイン方式をとる。
取扱の容易、混信分離の点などよりして実用機としては極めて常識的であるが、その当時においてはこれまた画期的な飛躍であった。
5.各部に軽合金材を使用した。
小型、軽量を生命とする軍用無線機にあって、重量の軽減のためにアルミニウム又はマグネシウム系の材料の使用は極めて適当であるが、これまた当時の生産、量産技術よりして、極めて高価であったものと思われるが、あえてこれが採用された。
すなわち、筐体、シャーシー、発動機の各部はもとより、空中線柱、送信機における大型のコイルにまでこれらが使用された。
6.通信距離に応ずる周波数の割当
前記電波伝搬試験の結果に基き、各機種には所要通信距離に応じて、次の様に周波数が割当てられた。
 400 ~ 2,500Kc     50Km以内昼、夜間用
2,500  ~ 3,000Kc    150Km以内夜間用
3,000  ~ 4,000Kc    1000Km以内夜間用
4,000  ~ 5,000Kc    近距離電話通信用
5,000  ~  7,000Kc    1000Km以内昼間用
25Mc以上         近距離用
各機種の通信所用距離に応じて、常用周波数帯をもち、その周波数の推奨発振子のみもっておるため、それ以外の周波数の発射は自励によるほかない。
したがって常用周波数以外の周波数は殆ど使用されなかったもののようである